ミトコンドリア病患者・家族親睦会
小坂 仁 先生
11月3日の患者家族に先立って、小坂仁先生からメッセージが届きました!!
4年前に膵癌の疑いがあった時の様子を、ミトコンドリア病医療推進機構の機関誌に寄稿したものだそうです。
『晩夏のある日に』
自治医科大学小児科学 小坂 仁
いつものように受診した健康診断で、膵臓頭部に腫瘤があり、膵管の拡張がありますと言われた。10月の出来事である。目の前が白くなった。外科系疾患に詳しくはないが、膵臓がんが疑われている。その治療が困難なことは知っている。御迷惑をおかけするため、親しい方々にすぐにご連絡をしたところ、ありがたいことに当日にCTを初めとする検査が組まれることになった。検査まで3時間。術前検査をひととおり済ませ時間が空いた。
日々刹那的に過ごしていた矢先の出来事である。真っ先には両親、家族に申し訳ないとの気持ちが浮かんだが、之ばかりはしょうがない。次に考えたのは、化学療法を受けるべきか断念するべきか、頭が鈍る薬剤は極力さけ、とにかく痛み止めはきちんと使ってもらおう、しかし後輩からの論文の指導が続けられるか、そもそも病棟でWifiはきちんと入るだろうかなど、現実的な悩み事が浮かぶ。小児科病棟への渡り廊下から見える病棟を囲む手入れされた花々と、周囲のからまつ林が今日はひどくキラキラして眩しい。本日の検査のあと、今後の方針が話されるであろう。その時取り乱さないように主治医からの話をきちんと聞けるであろうか。教育病院なので、若い研修医、学生もいるかもしれない。あまりみっともない対応はしたくない。病気は受け入れられないが、覚悟を決めよう。
何が心残りなのだろうか?若い人と取り組んでいるミトコンドリア病治療薬のことが真っ先に頭に浮かんだ。医者になって最初にやった実験は、血液からのPCR, ApaI酵素処理によるMELAS 3993A>G変異の同定だった。筋生検が不必要となる分子生物学の威力を体験し、そこから研究を始めた。その子は、優秀な、小学校の生徒会長。自宅で中心静脈を導入し、お宅にもお邪魔した。それから30年遺伝性難病に関わり、Leigh脳症の患者さん家族に導かれるように再びミトコンドリア病の研究に戻ってきた。いろいろな分野の臨床医や研究者と知り合い、忘れ得ぬ時間を過ごし、創薬の最前線にも関わることができた。しかし”ベンチからベットサイド”の随分手前である、等々考えているうちにCT造影検査。体が熱い。その後に検査結果の説明である。心づもりを整えようとしていたが間に合わないまま、診察室から呼ばれた。気持ちも拍動も乱れている。やはり整理するにはあまりにも時間が少なすぎた。
思いがけず問題ないとの結論がくだされ、点滴も繋がらず普段の診療・研究に戻ることができた。諦めかけたミトコンドリア病の治療薬開発にも戻ることができたが、他の希少難病も含めやるべきことは山積している。早期診断・治療のシステムを作りたい。学会への機内で話題の”君の膵臓を食べたい(略称;キミスイ)”をみた。将来ある若い女の子の願いはあまりにも切ない。しかし大勢の心に大切なものがずっと残る。明日は何が起きるのか、誰もわからない、“いま”を精一杯生きよと、映画のメッセージ。私の膵臓は大丈夫だったようだ。ならば、この瞬間にも新しい希望の薬を望んでいる家族がいる、その声に答えねば。
きもちを共有する医師、研究者、家族と力を合わせてやっていこう。
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過日、オールジャパンミトコンドリア病患者家族会では、小坂先生に本当にお世話になりました。
第2部の、患者家族から寄せられた質問に答えるコーナーでは、お忙しい中ファシリテーターを務めていだき、事前の打ち合わせ段階では念入りに準備を、本番では心のこもった議事進行をしていただきました。
会の終了後も、当日取り上げきれなかった患者様の声に耳を傾け、てんかんでお困りの患者様に、zoomで個別にアドバイスをしてくださいました。
私がブログに書いた、メラスの次男が発症前の高校時代に釣り部所属だった話を読んでくださったのか、ご趣味の釣りの話もしてくださり、とても親近感を覚えました。
先生のお住まいは海なし県の栃木ですが、横浜に住んでおられたときには、城ケ島、江の島で、メジナや、アイナメ、時にカレイ、船でメバル、アジ、タチウオなど釣られておられたようで、その腕もなかなかのものです。我が次男も、私が先生の釣りのお話をすると、とても嬉しそうに聞いています。
ミトコンドリア病患者家族は、温かく寄り添ってくださる先生に救われます。その先生が病と向き合っていたり、辛い境遇を背負っていたりと、私達と同じ立ち位置であることを公にしてくださるということは、とても勇気のいることのように思います。わたしたちが、先生たちとキャッチボールができることも、わたしたちの幸せです。
オールジャパン患者会での先生のお姿も、アポモルフィンの開発も、病を乗り越えてのお仕事だと知ると、先生からのメッセージに、改めて先生の凛とした人となりを感じました。
オールジャパン患者家族会 ファシリテータ小坂仁先生
日に日に空が高くなり、秋風がよぎると、ちょっとメランコリックな気分になったりします。
季節の変わり目、気温、気圧の変化に体調管理も難しくなることですね。
そんな折、みんなでちょっと潤えるような、患者家族会の企画を、みどりの会スタッフで、立てています。
?11月3日(文化の日)水曜日
13時から15時まで
小坂仁先生を囲んでの患者家族交流会
参加人数:ミトコンドリア病患者家族15名程度.
締め切り10月20日水曜日。
※小坂先生への質問コメントがある方はお書き添えください。
問い合わせ himawarinotubu@gmail.com(みどりの会)
?090-7196-2751(みどりの会 伊藤千恵子)
自治医科大学小児科学教授
「専門;小児神経学、ミトコンドリア病と遺伝子治療研究」
9月21日に行われましたオールジャパンミトコンドリア病患者家族会では、患者家族のと専門医との質疑応答のファシリテータを完璧に努めてくださり、常に患者家族の立場に寄り添ってくださいました。
終了後、小坂先生から「手作りなのに非常に念入りに準備されたいい会でしたね」と激励メールを受け取ったときは、ひたすら涙でした。その後、てんかんでお困りの患者様へのzoom会を、先生の方から提案して下さり、列席させていただいたときには、痙攣やてんかんというわかりにくい症状に対しての疑問が、ゆっくり解けていくようでした。先生のてんかんに対するアドバイスは、皆様とぜひシェアしたいと思い、今回の交流会の運びになりました。
内容?
?てんかんについて その症状や薬について
?アポモルフィンについて
?MA-5について など
今の所、議題として、先生にお伺いしたい質問を前もってみなさんとご相談して決めていきたいと思っています。個々へのアドバイスが欲しい方は当日のzoom会で直接、質問される形にしたいと考えています。
よろしくおねがいします。
千葉こども病院村山圭先生
先日のオールジャパン患者家族会で、ファシリテーターを務めてくださった村山先生、患者家族の質問に真摯にお応えいただいた大竹先生たちのグループが、日本で出生した新生児期発症のミトコンドリア病1281症例を検討し、臨床的な特徴、遺伝子診断結果や予後についてまとめ、その研究結果を論文報告してくださいました!
今回の研究は新生児期発症のミトコンドリア病症例を大規模にまとめた、世界で初めての報告になります。
この報告によって新生児期に発症が多い重篤なミトコンドリア病の新たな病態解明と、病因遺伝子に基づく治療開発などミトコンドリア病研究の、さらなる発展が期待されます。
本研究成果は、新生児関連疾患に関する論文を広く取り扱う欧州の医学雑誌『Archives of Disease in Childhood Fetal & Neonatal edition』誌のオンライン版に令和3年10月8日付で公開されました。
詳細は 以下をご参照ください!
2014年7月、次男龍は、17歳、高校野球応援と受験勉強で疲れている頃、夜中、目をむいて倒れている姿を発見。あわてて緊急搬送。偏頭痛と言われ、数時間すると、疲れてはいるものの、生活できるほどに戻っていました。しかし、何度も倒れていくうちに、事の重大さを知っていきます。
秋にはミトコンドリア病メラスと診断され、入院先の大学病院に、ネットで調べたアルギニン静注点滴の再三の要望にも、「保険適応外」の一つ返事で却下されました。その後、アルギニン点滴については、古賀先生、村山先生始め、たくさんの専門医からアドバイスを頂き、病院側に交渉した末の、発症から半年後、他の病気の検査薬として、自費(月8万円ほど)で入れてもらいました。しかし残念ながら、すでに龍の脳の高次機能は悪化しました。
龍は、2015年、合計半年の入院生活を経て退院して以降は、検査入院以外の大きな入院は有りません。退院後は、なんとか自宅療養をしたいと、必死になって不隠時のアルギニン点滴を自宅でやってもらえるルートをさがしました。
発症時から何度も倒れる龍の様子をはっきりと覚えていますから、いつもと違って、体と心の不穏状態が続くようなときは、本人からのアルギニン所望の意志を看護師と確認し、アルギU点滴静注20グラムを一回入れてもらいます。みどりの会の調査では、頭痛時に外来での一回の点滴で調子を戻したケースも有りました。急性期を過ぎた後の慢性期においても、アルギニン点滴を実際に入れてもらえると、本人が落ち着いて睡眠と栄養を取れ、生活のリズムが取り戻せるようになっています。
発病当初の苦い経験と、在宅療養におけるアルギニン静注点滴の実践を元に、同じ様に苦しむ患者様が全国どこでも平等に処方できるようにと、2020年春から、久留米大学医学部小児科古賀靖敏先生と、アルギニンの保険適応を求める活動をはじめました。古賀先生から送られた資料は莫大でした。
みどりの会でも呼びかけて、アルギニン点滴の実施状況、患者のその後の様子など何件かまとめさせてもらいました。しかしながら、厚労省の医薬品審査管理課、製薬会社などに当たり尽くしましたが、患者の声を親身に聞いてはもらえても、大きな組織の中では痛ましい声だけが、宙に舞っていました。
2021年6月国立成育医療研究センターの中村秀文先生から、厚生省保健局長通達「55年通知」の審議にかけるというお知恵をいただくことができました。
結果、古賀先生の多大な労力を元に、やっと、日本でもアルギニンの保険適応が叶う道がつながることになりました。
以下古賀先生より、皆様へお手紙です。
MELASに対するアルギニン治療の適応外使用は、日本では限られた施設で処方されています。アルギニン治療は、MELAS患者の脳卒中様発作急性期治療としての静注治療と、発作予防もしくは発作時の重症度を軽減するための内服治療により、MELASの長期予後を改善し、死亡率を軽減する事が、治験参加症例の9年間のフォローアップ研究で明らかになっています(J Neurology 2018)。静注および内服の2つの治療は、何れもMELASの生活の質の向上に必須の組み合わせであり、ミトコンドリア病の治療薬剤として、国際的な専門学会(Mitochondrial Medicine Society)から治療推奨薬剤として位置づけられています(Genet Med. 2017)。欧米では、ミトコンドリア病の診断がついた場合、全例に使用されている一般的薬剤となっています。
日本では、アルギニン処方は、適用外使用であり、全国どこでも処方できる訳ではありません。MELASに対するアルギニン治療の提唱者である久留米大学医学部小児科古賀靖敏は、アルギニン治療が欧米と同様に、日本全国どこでも使用できるように申請書を提出中です。救済措置として、厚生省保健局長通達「55年通知」を利用し、アルギニン処方を公知の事実として、保険適応として全国で扱えるように国に申請中です(2021年9月11日現在)。今後、日本小児科学会の薬事審査員会(2021年10月)、その後に厚生労働省医薬審査課、支払基金審査会で審議の上(2022年1月)、うまくいけば2022年4月から全国で処方できる見通しです。
患者家族会の皆様には、今しばらくご不便をおかけする事になると思いますが、どうぞよろしくお願いします。
IMP(International Mito Patients)というミトコンドリア病の国際組織は、国境を超え、患者のサポートや資金集めなどを活発に行っている組織です。
この組織が、ミトコンドリア病週間に世界の様々な場所をみどり色にライトアップすることで、ミトコンドリア病の周知啓発運動を推進しようとしています。
オーストラリアのミトコンドリア病患者組織「Mito Foundation」のフレザー佳奈さんの呼びかけも有り、MCMの世話人山田源太郎さんが横浜市に掛け合い、横浜市開港記念会館を、
9月24日から27日までライトアップする運びとなりました。
山田さんが一生懸命に働きかけたライトアップも、素晴らしいつながりになりました。
みどりの会zoom室は、山積みの残務整理もそこそこに、やや不安でしたがメラスの息子龍を連れて、ライトアップの光景を見に横浜開港記念会館まででかけました。
龍の誕生日間近。発症から8年目。25歳の記念すべきライトアップ。騒音や人混みも不安です。
開港記念会館は、海の近くなので開放感もありそう?という予想に反して、横浜の中心地。車が四方から飛び交う交差点の一角でした。
龍は去年から精神症状が悪化していて、新しく馴染みのない環境に対して、ひどく緊張するようになりました。
自分がどう見られているのか。
慣れない場所で、車の騒音も、人混みも大の苦手。
案の定、不穏になって路上で寝転び、頑なに移動を拒否する龍と、その龍を移動させようとする母は、警官からの尋問にあいました。
焦りまくりましたが、おまわりさんに、「開港記念会館がミトコンドリア病の周知理解のため、ライトアップされ、皆で記念して集まったんです」と、咄嗟に出た言葉が周知啓発できたか?血迷った親子をかばうように、遠路足をお運びくださった後藤先生と村山先生も、「専門医も一緒ですから大丈夫」とお話くださいました。
おまわりさんからは「勉強不足で申し訳ない」と言っていただき、「撮影させてもらいます」と、さらにライトアップの前にならぶミトコンドリア病関係者たちの素敵な写真を撮っていただきました。
それから、皆さん、三々五々別れたのですが、残って私達親子を見守る山田さん。じっと龍の話に耳を傾けてくれるその眼差しに、吸い寄せられるように龍は山田さんに近づきました。(正気な目でゆっくり起き上がり、足元もしっかりと。)
「龍と同じミトコンドリア病の仲間だね。ひとりじゃない。友達。」
龍と山田さんは自然に握手を交わし見つめ合いました。
しばらく静寂の中、ライトアップを前に繋がったミトコンドリア病の友情に、私も龍の弟も感激で時間が止まりました。緊張感が一気に流れを豊かにし、温かい灯火が私達の周りを包みました。
改めて、病は辛い。だけど必ずそこには希望の道が繋がれる。
先生や患者家族みなさまにに助けられるーそう思いながら、私達にとっても大事な意味を持つライトアップ記念日でした。
You’ll Never Walk Alone!(村山先生から送られた言葉)
※写真は、2人の専門医、後藤先生と村山先生。村山先生の奥さんとお子さん2人。その周りに、患者会のみなさんも並びました。(寝転んでいるのが、龍です^^;)
今回のオールジャパン患者家族会開催において、
患者家族から質問状が届くたびに、
そしてこの質疑応答の貴重な場を、
個人情報が詰まった質問状を前に、
ミトコンドリア病がとても複雑な病であるからこそ、
全参加者へ配布するための資料作り、
そのことが良かったかどうかはわかりませんが、
今回のブログでの報告も、
大切なお話だと思いましたので、前置きが長くなりました。
以下、はるみさんがまとめてくれたレポートです。
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アミノレブリン酸(5-ALA)やMA-5の治験の進捗状況や、
コロナ感染症については、ワクチンの接種の良否、
MCM会員を対象としたワクチンの副反応に関してのアンケート結
遺伝子検査については、
てんかん薬についてのご相談も多く寄せられ、
薬剤のメリット・デメリットや、使用方法などの説明もあり、
ケトン食療法、アトキンス食療法等の、
とても多くの症例があり、同じ病でも抱える問題は様々ですが、
当日は、ここへ書ききれないほどの沢山のお話が上がり、
・薬剤によりミトコンドリア病を誘発することがあるか
・遺伝子検査にはどのような種類があるのか
・小児のアルギニン服用の効果
・筋力維持のためのリハビリについて
・変異型ミトコンドリアの割合(ヘテロプラスミー)について
・全身的なエネルギーと栄養状態について
・ミトコンドリア病の確定診断に至るまでの検査について
・iPS細胞を用いた治療法について
・幹細胞を使った治療法の未来
・Muse細胞による再生医療について
・SB623(サンバイオ)について
・MERASの自然歴
・5-ALAのサプリメントでの摂取量
・薬剤のミトコンドリアへの影響
・ミオクロニー発作に対しての薬剤
・失われた脳神経系の改善の見込み
・OGTT経口糖負荷試験について
・精神症状についての対策
・ビタミンB1の内服量について
・低気圧と体調の関係
・低血糖コントロール
みどりの会では、今回掘り起こされた疑問を、さらなるzoom患者家族の交流会、zoom専門医を呼んでの勉強会などを行って、少しでも前に進んでいきたいと思っております。
どうぞよろしくおねがいします。
オールジャパンミトコンドリア病患者家族会
盛会裏に終了できましたこと、心よりお礼申し上げます。
実行委員会一人ひとり今回の会への思いも深く、会での糧も多く、
日々の暮らしに生かされることにも感謝致しております。
みどりの会ではこれからの活動のためにも、様々な方面から頂いたお知恵を拝借して
今後もミトコンドリア病を囲む輪を大事に活動してゆきたいとおもっております。
残務整理におわれる日々はもうしばらく続きますが、みどりの会スタッフに助けられてここまでこれましたこと、感謝の意を込めて。
チームみどり:広報ほか事務*はるみ、まきこ、わか、きえ、かよこ、ゆりこ(チラシ製作) zoom他技術スタッフ*yama
※トピックまとめは、わかさんとの共同作業です。
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ファシリテータ村山先生
チャットやQ&Aと並走しながらのファシリテーションは、知識を織り交ぜながら、なめらかで他の先生との呼吸もピッタリ。時間もお見事ぴったりでした。
?小坂仁先生
「治験準備中のLeigh脳症の治療薬(アポモルフィン)について」
アポモルフィンの治験前の薬効、
パーキンソン病では投与了承済みの薬である。
Leigh脳症やmelasの患者の皮膚繊維芽細胞は酸化ストレスに侵されやすいが、アポモルフィンを加えるとATPが上がり、ミトコンドリアの状態が良くなる。
今から4年目、5年目位の治験実施を考えており、リー脳症患者から行う予定。(melasにも効果があると考えられる)
?大竹 明 先生
「ミトコンドリア病の治療:世界の最新治験情報を中心に」
○日常の生活について(患者、患者家族に覚えておいて欲しいこと)
①適切なエネルギー源、水分、電解質の摂取
②糖質制限と脂質優先摂取
③消費エネルギーの抑制、発熱、けいれんの処置
④Lカルニチン
⑤ビタミンカクテル
⑥ミトコンドリア毒を避ける
(バルプロ酸、ビボキシル基含有抗生剤 テトラサイクリン
クロラムフェニコールなど)
なぜ脂質優先が良いのか
1)ミトコンドリア病は細胞質のNADH上昇が諸悪の根源
2)グルコースは細胞質のNADHを増やす
3)脂肪(酸)は、ミトコンドリアのNADHを増やす→安全
○治験について
ミトコンドリア病は希少疾患でありながら症状や検査所見も多彩で、根本治療法の開発がとても難しい分野である。
今回は①~③についての最新の進歩を紹介しつつ、それらを応用した世界と日本の最新治験情報を紹介したい。
<国際治験情報>
海外では、酸化還元を治すもの、細胞膜の安定化をするもの、遺伝子治療等多種多様な治験が行われている。 しかし、最終段階までいったのはレーベル病に対するイデベノンのみである。(EPI743が今のところ有望か?)
その理由として以下の3点が挙げられる。
ミトコンドリア病の新規治療法開発の壁として
①病気の自然歴データの不足 (国際レジストリが必要)
②病状を反映する良いバイオマーカーの不在、
③病状評価のための良い評価スケールの不在、
<日本国内の治験情報>
アポモルフィン= 臨床治験前
MAー5= 臨床治験前(基礎段階であるが有望)
EPIー743= メラス・リー脳症 ?
5ーALA= 治験第3相
5-ALAについては、残念ながら、今の段階で実薬グループとプラセボグループからの有意差認められず、正式な承認までにはまだ時間がかかりそうである。
?後藤雄一先生
『ミトコンドリア病ハンドブック(第2版)』発行について
内容:2012年5月に初版を発行して、冊子体の配布とともに難病情報センターのミトコンドリア病のサイトにてダウンロード版を提供してきた。
第2版では、内容を刷新し、診断基準、栄養法や治療法、遺伝学的用語、福祉制度、患者レジストリーなどの情報を変更・追記した。その内容を簡単に紹介する。
冊子でも、ネットでも見られるようにしていく。
治療法の変化もあり、イラスト付きでだれでも見やすい入門的ハンドブック作成中。第2版も、冊子、ダウンロード版を提供する。
(すべてが母系遺伝ではなく、突然変異も多く見つかってきたことも記載。少なくとも、出生時200人に対して一人は、ミトコンドリアDNA変異を持っている。変化が起こる確率は10万人に107人。)
(最新治療ゲノムなどの研究も進む昨今、レジストリー(情報提供)が大切。)
?田中雅嗣先生
「ピルビン酸ナトリウムについて」
リー脳症では大脳基底核や呼吸中枢の神経細胞は常に活動しているので、ミトコンドリア病ではエネルギー不足になりやすい。神経細胞の障害が進行する前に、早く、ピルビン酸ナトリウムを入れることが大事である。
○ピルビン酸が不足すると、エネルギーの危機に陥る。
○細胞内のNAD⁺の欠乏と、NADHの過剰解消。
○易疲労を解消。
*治験は終了した。症例が少なく、十分なエビデンスができていない。
*QOLを指標にする評価方法があればよいが。
(QOLを指標にする評価方法で再度治験を行う必要があるが、国の予算が途絶えているので、製薬会社の協力や更に資金を得ることが今後必要になる)
*乳酸とピルビン酸二つの組み合わせは重要と考えている。
*アメリカの教授が、血中にできた乳酸をピルビン酸に変えてまたそれを体内に戻す人工酵素を作っている。乳酸が高いことはよくなく、ピルビン酸を供給することはよいことだということを理解し基礎研究を行っていると思う。
?三牧正和先生
「ミトコンドリア病のレジストリ(患者さんの登録制度)のご紹介」
○新しい治療法が開発され、臨床試験、治験が始まったとき、患者にその情報を届けることをスムーズにすること。
○対象となる患者を速やかに把握すること。
レジストリシステム(患者登録システム)とは双方の流れをスムーズにするためのシステムである
J-MOバンク→新生児・小児期発症
Remudy(レメディ)システム→メラス・マーフ・CPEO
システム登録には基本的には遺伝子が確定しているミトコンドリア病(MELAS,MERRF,CPEO)の方が登録できる。Remedyのサイトでダウンロードできる医師同意書等の書類を主治医に記載してもらい、登録センターに送付する。
(遺伝子が確定していないが臨床的に明らかにその病気であると診断されている場合は要問い合わせ)
*レジストリーシステム(患者登録システム)の大きな目的は、しっかりとした登録システムを構築して治験に備えること、患者の実態を把握してQOLの向上に努めることである。
?木下(きした)善仁先生
「ミトコンドリアゲノムをターゲットにした治療法開発の現状」
近畿大学理工学部生命科学科講師で、今は大学院総合理工学研究科理学専攻遺伝カウンセラー養成課程の担当
○遺伝子治療
変異が起きたミトコンドリアDNAに正常な遺伝子を入れ、機能を回復させるもの。
○ゲノム編集
変異したミトコンドリアDNAを切断し他物を正常な遺伝子に書き換えるもの
遺伝子治療、ゲノム編集が一緒に使われる行われることもある。
現在実際行われているものは、レーベル遺伝性視神経症で、アデノ随伴ウイルスを注射で注入し遺伝子を戻すと、視力回復が見られる。
ゲノム編集に関しては、ヒト細胞やマウス個体レベルでの検証であり、ヒトへの応用はまだこれからである。しかし、化合物を使ってミトコンドリアの変異DNAを減らすという研究なども出てきており、この先端治療は実用化まで時間はかかるが、期待してよい治療法である。
?長瀬逸郎様 アステラス製薬
ミトコンドリア・バイオロジーに関連した研究開発を意欲的に進めており、ミトコンドリア病もそのターゲットである。
最近では、Minovia社とのミトコンドリア細胞医療に関する戦略的提携契約を締結した。
◎科学と技術を融合した新しい治療法の開発アプローチ
○ミトコンドリアのストレスに効くもの
○NAD増強
○遺伝子調整 ミトコンドリアの量を増やす
○ミトコンドリアのたんぱく質を調整する
方法
ミトコンドリア細胞医療
生きたままのミトコンドリアをドナーから取り出し、アステラスで研究開発したユニバーサル??ドナー細胞技術で免疫反応を回避しながら、障害を受けた組織に正常なミトコンドリアが輸送されるという生理現象を用いて正常なミトコンドリアを体細胞に移植する、という技術に挑戦したい。
現在アメリカで臨床試験を行っている研究が日本でも取り入れられるようにしていきたい。
?村山圭先生
「オールジャパンでのミトコンドリア病の診療基盤構築 ~力をひとつに~」
診断→治療→生活向上
AMED(エーメド)の診察基盤を作り、病態解明、創薬につなげるための臨床試験をしっかり行う。
ミトコンドリア病診療マニュアル 2022年版制作中!
・Leigh脳症の遺伝子型と予後
・ミトコンドリア肝症の臨床像・遺伝学的特徴 など
2014年に結成した村山班は、多様なミトコンドリア病の遺伝子型/表現型/自然歴などをガイドラインに反映させ、エビデンスを創出。
自治医大では、ミトコンドリア病でもIPS治療研究がすすめられている
データベース、レジストリーをもとに、国内・海外連携を取りながら、ミトコンドリア病の診断、解明治療のネットワークを作っていく。
オールジャパン 力を一つに!
決して一人じゃないということです。
?フレーザー佳奈さん
1.Awareness WeekということでInternational Mito Patientの活動
2.Mito Foundationとしてオーストラリアの現状、患者さんの活動(メディアや政治家への働きかけなど)や交流(オンライン勉強会など)
Mito Foundation (オーストラリア) マーケティング・コミュニケーション担当
Mito Foundation(マイトファンデーション)
専従職員20名が在籍。ほかボランティア多数
設立11年目
勤務スタッフが20名程度、プラス多くのボランティアで活動中
政府から援助を受けて看護師の資格のあるスタッフが個々の患者に必要な政府の制度や臨床試験を案内
勉強会、オンライン交流会などを提供
現在、法律の改正(親からのDNAの異変が遺伝しないような特別な体外受精の認可)を求めている。スタッフ、患者(家族)が地域の政治家に働きかけたりSNSで活発に発信したりしている。
Leigh脳症国際団体の立ち上げ 等
季節ごとのキャンペーン、コロナ禍ではバーチャルイベントなども開催している。
IMP(International Mito Patients)
設立10周年の国際的な団体
国境を越えて患者のサポートや資金集め、啓蒙活動を共に行う。
アメリカ、カナダ、ドイツ、スペインなど16団体が参加。
情報提供、それぞれの国内での認知度を高める活動をしたり
医師、研究者、製薬業界との関係を調整したりしている。
また、世界中どこの患者でもサポートを受けられるようにメール等での相談を受け付け、その国で受けられるサービスを探す手伝いをしている。
ミトコンドリア病の世界組織IMPの呼びかけにより、ミトコンドリア病啓発週間が9月19日(日)から25日(土)まで、世界各地で行われます。
日本では9月25日、横浜市開港記念会館の緑のライトアップが執り行われることになりました。MCM世話人山田さんの、横浜市への働きかけ→報告は後ほど。