【開催報告】三牧正和先生勉強会:てんかんなどの神経症状と生活の工夫

 

開催報告! 三牧正和先生勉強会:てんかんなどの神経症状と生活の工夫

 

ミトコンドリア病患者家族にとって、てんかん発作などの症状は最も心を乱される症状の一つだと思います。自分も何が起きているのかわからない状況、どうなってしまうかわからない症状にどれだけ不安を抱いたか計り知れません。

 

12月13日、三牧正和先生による勉強会には、その不安を「知る力」に変え、治療のためのアドバイス、生活のQOLを上げるための工夫が込められておりました。

 

①発作時の動画撮影が、診断においてとても重要であると強調されました。なぜなら、動画には医師が診断を下すための  大切な手がかりが詰まっているからです。

  • 発作の左右差: 体のどちら側から症状が始まったか、左右で動きに違いはあるか。
  • 目や首の向き: 発作中に眼球や顔がどちらか一方を向いていないか。

こうした細かな観察点は、発作が脳のどの部分から始まっているのか(「焦点発作」か「全般発作」か)を判断する上で、脳波検査と同じくらい、あるいはそれ以上に大切な情報を与えてくれます。

例えば、片腕を伸ばし、顔をそちらに向け、もう片方の腕は弓を引くように曲げる「フェンシング」のような姿勢。このような左右差は、脳の特定の部分から始まった「焦点発作」であることを示す証拠になりうる、というお話でした。

 

②発作時の応急手当、「してはいけない」こと

  • 体を無理に押さえつけない
  • 口の中に指や物を入れない
  • むやみに動かしたり、刺激したりしない

体を無理に押さえつけても発作は止まりません。むしろ、本人のパニックを助長する可能性もあります。また、「舌を噛むのではないか」と心配して口に物を入れる行為は危険です。舌を噛んでも命にかかわることはまずありませんし、舌を噛むのはほとんどが発作の最初の段階なので、発作に気づいてから対応しても噛むことを防ぐのは困難です。むしろ、口に物をいれると呼吸が妨げられるし、口に入れられた物が喉に詰まり、窒息を引き起こすリスクもあります。

本当にすべきこと

  • 衣服を緩め、楽に呼吸ができるようにする。
  • 嘔吐に備え、窒息を防ぐために顔を横に向ける。
  • 発作の時間を測る。
  • 発作の様子(左右差、目の向きなど)を冷静に観察し、可能であれば動画を撮影する。

「仮に発作が5分、10分続いたとしても、その後きちんと元に戻ります。窒息や転倒などの事故さえなければ、後遺症を残すことはありません」。慌てず、安全を確保し、冷静に観察すること。それが、本人にとって最も安全で、かつ後の治療に繋がる最善の対応なのです。

「5分以上続く場合は救急車を検討」それは、5分で脳にダメージが起きるからではなく、「5分を超えると発作が自力で止まりにくくなる傾向がある」ため医療機関での対応を早めに検討した方が良い、という意味です。実際に後遺症のリスクがあるのは、発作が30分以上続いた場合といわれています。5分という数字にパニックにならず、落ち着いて行動するための目安です。

 

③すべての「てんかん」は同じではない:「焦点発作」と「全般発作」という違い

「てんかん」と一括りにされがちですが、実はその発作には大きく分けて2つのタイプがあり、この違いを理解することが治療の鍵を握ります。

  1. 焦点発作(部分発作): 脳の特定の領域から異常な電気興奮が始まるタイプの発作です。症状は、興奮が始まった脳の部位によって異なり、体の片側だけが痙攣したり、異常な感覚に襲われたりします。
  2. 全般発作: 脳の広範囲で一斉に異常な電気興奮が起こるタイプの発作です。多くの場合、最初から意識を失います。全身が痙攣するような激しい症状が見られることもあります

この分類が重要なのは、使う薬が変わってくるためということです。焦点発作に有効な薬が全般発作には効かなかったり、その逆もまた然りです。場合によっては、誤ったタイプの薬を使うことで、効果がないばかりか、症状を悪化させてしまう可能性すらあります。

したがって、医師が発作の様子や動画を重視するのは、この2つのタイプを正確に見極め、最も効果的な薬を選択するためなのです。

 

④一般的な薬が禁忌薬にもなりうる

てんかん治療において広く使われている薬であるバルプロ酸(商品名:デパケン、セレニカなど)は、多くのてんかん発作に有効ですが、ミトコンドリアの機能を低下させる可能性が指摘されています。とりわけ「POLG1異常症」という特定の遺伝子異常を持つ患者さんにとっては、重篤な肝障害を引き起こすリスクがあるため、使用を避けます。しかし、その他のミトコンドリア病においては、他の薬ではどうしても発作をコントロールできない場合に、リスクを慎重に評価した上でバルプロ酸が使われることもあるということです。

「正確な診断の手がかり」を家族が提供すること。遺伝子レベルの診断に繋がる情報が、こうした危険な薬を避けるための最初の、そして最も重要な一歩です。

 

⑤ それは「脳卒中様発作」か、それとも「てんかん」か?

ミトコンドリア病メラス(MELAS)の患者さんを悩ませる「脳卒中様発作」。これは、突然の頭痛や視覚異常、麻痺、痙攣などを引き起こす症状です。

この症状が、脳卒中様発作によるものか、てんかん発作なのか、区別が難しいことがありますが、最近は「脳卒中様発作そのものが、実は脳の過剰な興奮状態であり、広い意味でてんかんと同じような病態である」ととらえて治療介入を行うべきだと考えられています。

かつては、この二つを区別して治療することが試みられていましたが、早期から積極的にてんかんの治療を行うことが推奨されるようになっているということです。これは、メラス患者さんの予後を改善する可能性を秘めています。

 

⑥ 生活の工夫。

寒さ・暑さ対策、紫外線予防のサングラスの使用。

食事もケトン食で良くなった場合もありますが、頑張りすぎず、無理なく、なるべくバランスよく良い脂肪をたくさん取ること。

 

今回の三牧正和先生のお話をお聞きし、正しい知識を持つこと、客観的に対応することが、未来を照らす光になると感じました。

ミトコンドリア病とてんかんの関係は、私たちが想像するよりもずっと複雑で、奥深いものです。しかし、不安に立ち尽くすのではなく、家族だからこそできることがある、という確かな希望でした。

てんかんとの向き合い方は、決して一つではありません。

複雑に絡み合った症状があるからこそ、色んな視点から本人の状態を見ることも大事だと思いました。

 

私事ですが、本日私は息子の脳神経の代理受診でした。

今回の三牧先生の勉強会で得た知識を持って、主治医に「右足がぴくんと痙攣するミオクローヌスだけでなく、足がねじれてしまう症状も起きていたこと」を報告できました。

息子は幸いにも、あるてんかんの薬を増量したためか痙攣は止まり、足のねじれもなくなったので歩行が可能になりました。

今回の情報をもとに、主治医との対話を一歩深めてみることも大事だと思いました。その小さな一歩が、未来を照らす確かな光になると思いました。

 

進行をずっと見守ってくださったみどりの会顧問の田中雅嗣先生も、複雑な脳の中の仕組みをきちんと理解し、洞察していることに驚き、何より三牧先生が一人ひとりの患者様と向き合って、誠実にお応えくださる姿に感動なさっていました。私たちも会の間ずっと一緒に考え、勉強なさっている田中雅嗣先生の姿に癒やされていました(笑)。

参加してくださった皆様、本当に有意義な楽しい勉強会ができましたこと感謝いたします。具体的な質疑応答については大切な個人情報もありますのでこちらには表記できませんことをご了承ください。

 

最後まで一緒に悩んで、患者家族に寄り添ってアドバイスを下さった三牧先生に感謝いたします。

ありがとうございました。

 

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