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ミトコンドリア病遺伝子パネルシーケンスによる遺伝子検査の実施体制を整備
― 長年の研究成果をもとに保険適応の遺伝子検査を実現 ―
本研究成果のポイント
- ミトコンドリア病遺伝子パネルシーケンスを開発し、600症例の遺伝子解析を完了
- 順天堂医院臨床検査部(ISO15189認証取得)における保険適応検査として受付を開始
- ミトコンドリア病の診療から研究までをカバー
研究内容
順天堂大学大学院医学研究科 難病の診断と治療研究センター(難治性疾患診断・治療学)の岡﨑康司教授の研究グループは十数年にわたり、全国から寄せられるミトコンドリア病疑い症例の遺伝子診断に取り組んできました。ミトコンドリア病は先天性代謝異常症として最も発症頻度の高い疾患で、5000人の出生あたり1人が発症すると考えられています。国内の年間出生数を約100万人とすると毎年約200人のミトコンドリア病の赤ちゃんが誕生し、その半数以上の遺伝子検査が順天堂大学で行われてきたという計算になります。
ミトコンドリア病の原因遺伝子はミトコンドリアDNAだけでなく、核のDNAにも多数存在します。そこで研究グループはこれらの原因遺伝子を効率よく一括で調べることのできる“ミトコンドリア病遺伝子パネルシーケンス”を開発し、効率的な遺伝子診断の仕組みを整えてきました。すでに600症例を超える解析が完了し、その有効性が十分に証明されています。
2020年1月~2022年12月の3年間に解析した449症例のデータを分析すると、この検査方法で遺伝子診断がついた症例は105件(23.4%)でした。このうち核遺伝子変異を原因とする症例が38件(8.5%)、ミトコンドリアDNA変異を原因とする症例が67件(14.9%)でした。その他、臨床的意義不明バリアントをもつ症例が35件(7.8%)見つかり、これらの症例はさらに詳細な解析に進んでいます。(図1)
順天堂医院 臨床検査部では保険適応のミトコンドリア病遺伝子検査として遺伝子パネルシーケンスを実施し、既知変異を報告します。その後、研究に同意されている患者さんについては難病の診断と治療研究センターが行う研究において、より詳細に解析されます。(図2)
今後の展開
AMED難治性疾患実用化研究事業におけるミトコンドリア病研究プロジェクト(通称:AMED村山班)の代表としてチームを長年率いてきた難病の診断と治療研究センター 村山圭教授が、2023年7月1日より順天堂医院 小児科・思春期科での外来診療を開始しており、ミトコンドリア病の診療から研究までをカバーできるようになりました。
順天堂医院におけるミトコンドリア病遺伝子検査(遺伝子パネルシーケンス)は保険診療の対象ですが、本検査のみでは遺伝子診断がつかない患者さんも多数いらっしゃいます。採血の際に研究参加への同意を表明(署名)頂いた患者さんに対しては、難病の診断と治療研究センターがミトコンドリア病研究として遺伝子解析を引継ぎ、全ゲノムシーケンス・RNAシーケンス・機能解析実験などより詳細な解析を行い、遺伝子診断確定を目指していきます。
用語解説
*1:ミトコンドリア病
ミトコンドリアは、ほぼすべての細胞に存在する細胞小器官で、重要な役割の1つとして生命活動に必要なエネルギー;ATPの生合成が挙げられます。ミトコンドリアの内膜に存在する呼吸鎖複合体が酸化的リン酸化反応を利用してATPを生合成しています。ミトコンドリアの機能低下によって引き起こされるのが「ミトコンドリア病」で、エネルギー産生が減少してしまうことによって全身の臓器や器官にさまざまな影響(けいれんや精神症状、筋力の低下、心筋症、肝臓・腎臓の機能低下、難聴など)が現れます。
*2:ミトコンドリア病遺伝子パネルシーケンス
検査の対象となる遺伝子セットを「遺伝子パネル」、遺伝子パネルに含まれる対象遺伝子の配列を調べる検査手法を遺伝子パネルシーケンスと呼びます。本研究グループが開発したミトコンドリア病遺伝子パネルは、核のDNAにコードされた合計367個の原因遺伝子の他、ミトコンドリアに存在するミトコンドリアDNAの全周(16.6kb)も対象としている点が特徴的です。
学会発表
本研究成果は、第22回日本ミトコンドリア学会 年会(2023年11月14日)で発表されました。
演題:【ミトコンドリア病遺伝子パネル】累計565症例の解析、および保険診療体制の整備
演者:八塚由紀子1)、木下善仁1,2)、杉浦歩1)、岡﨑敦子1)、祁新菊1)、伏見拓矢3)、村山圭1,3)、大竹明4)、岡﨑康司1)
1)順天堂大学難病の診断と治療研究センター(難治性疾患診断・治療学)、2)近畿大学、3)千葉県こども病院、4)埼玉医科大学
本研究はJSPS科研費JP23H00424およびAMED難治性疾患実用化研究事業JP23ek0109625の支援を受け、多施設との共同研究のもとに実施されました。本研究にご協力いただいた患者様および主治医の先生方に深謝いたします。