ミトコンドリア病におけるアルギニンの保険適応について 

 

2014年7月、次男龍は、17歳、高校野球応援と受験勉強で疲れている頃、夜中、目をむいて倒れている姿を発見。あわてて緊急搬送。偏頭痛と言われ、数時間すると、疲れてはいるものの、生活できるほどに戻っていました。しかし、何度も倒れていくうちに、事の重大さを知っていきます。

秋にはミトコンドリア病メラスと診断され、入院先の大学病院に、ネットで調べたアルギニン静注点滴の再三の要望にも、「保険適応外」の一つ返事で却下されました。その後、アルギニン点滴については、古賀先生、村山先生始め、たくさんの専門医からアドバイスを頂き、病院側に交渉した末の、発症から半年後、他の病気の検査薬として、自費(月8万円ほど)で入れてもらいました。しかし残念ながら、すでに龍の脳の高次機能は悪化しました。

龍は、2015年、合計半年の入院生活を経て退院して以降は、検査入院以外の大きな入院は有りません。退院後は、なんとか自宅療養をしたいと、必死になって不隠時のアルギニン点滴を自宅でやってもらえるルートをさがしました。

発症時から何度も倒れる龍の様子をはっきりと覚えていますから、いつもと違って、体と心の不穏状態が続くようなときは、本人からのアルギニン所望の意志を看護師と確認し、アルギU点滴静注20グラムを一回入れてもらいます。みどりの会の調査では、頭痛時に外来での一回の点滴で調子を戻したケースも有りました。急性期を過ぎた後の慢性期においても、アルギニン点滴を実際に入れてもらえると、本人が落ち着いて睡眠と栄養を取れ、生活のリズムが取り戻せるようになっています。

発病当初の苦い経験と、在宅療養におけるアルギニン静注点滴の実践を元に、同じ様に苦しむ患者様が全国どこでも平等に処方できるようにと、2020年春から、久留米大学医学部小児科古賀靖敏先生と、アルギニンの保険適応を求める活動をはじめました。古賀先生から送られた資料は莫大でした。

みどりの会でも呼びかけて、アルギニン点滴の実施状況、患者のその後の様子など何件かまとめさせてもらいました。しかしながら、厚労省の医薬品審査管理課、製薬会社などに当たり尽くしましたが、患者の声を親身に聞いてはもらえても、大きな組織の中では痛ましい声だけが、宙に舞っていました。

2021年6月国立成育医療研究センターの中村秀文先生から、厚生省保健局長通達「55年通知」の審議にかけるというお知恵をいただくことができました。

結果、古賀先生の多大な労力を元に、やっと、日本でもアルギニンの保険適応が叶う道がつながることになりました。

以下古賀先生より、皆様へお手紙です。

 

MELASに対するアルギニン治療の適応外使用は、日本では限られた施設で処方されています。アルギニン治療は、MELAS患者の脳卒中様発作急性期治療としての静注治療と、発作予防もしくは発作時の重症度を軽減するための内服治療により、MELASの長期予後を改善し、死亡率を軽減する事が、治験参加症例の9年間のフォローアップ研究で明らかになっています(J Neurology 2018)。静注および内服の2つの治療は、何れもMELASの生活の質の向上に必須の組み合わせであり、ミトコンドリア病の治療薬剤として、国際的な専門学会(Mitochondrial Medicine Society)から治療推奨薬剤として位置づけられています(Genet Med. 2017)。欧米では、ミトコンドリア病の診断がついた場合、全例に使用されている一般的薬剤となっています。

 

日本では、アルギニン処方は、適用外使用であり、全国どこでも処方できる訳ではありません。MELASに対するアルギニン治療の提唱者である久留米大学医学部小児科古賀靖敏は、アルギニン治療が欧米と同様に、日本全国どこでも使用できるように申請書を提出中です。救済措置として、厚生省保健局長通達「55年通知」を利用し、アルギニン処方を公知の事実として、保険適応として全国で扱えるように国に申請中です(2021年9月11日現在)。今後、日本小児科学会の薬事審査員会(2021年10月)、その後に厚生労働省医薬審査課、支払基金審査会で審議の上(2022年1月)、うまくいけば2022年4月から全国で処方できる見通しです。

 

患者家族会の皆様には、今しばらくご不便をおかけする事になると思いますが、どうぞよろしくお願いします。

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