先生たちからのメッセージ2 田中先生

 

ミトコンドリア病患者家族とミトコンドリア研究の先生たちとの懇親を

今こそ深めるべきだと思っています。

自分が交流できる先生とメールでお願いして患者家族に向けての情報をいただき、エールの交換ができたらと思います。

今回は、ピルビン酸ナトリウム生みの親、田中雅嗣先生からのメールです。

ドクター相談室には、2007年から、ピルビン酸ナトリウムの見解など精力的にコメントをくださっています。

今春のミトコンドリア病研究患者公開フォーラムでは田中先生のミトコンドリア入門の講義を楽しみにしておりました。

田中先生からのメールは2回に分けて送ります。

以下田中先生のメール内容です。

 

田中先生ありがとうございます。

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ミトコンドリア機能の低下があると、新型コロナウイルス(COVID-19)による重症急性呼吸器症候群(Severe Acute Respiratory Syndrome)が重症化するというデータはまだ無いと思います。
ミトコンドリア病の患者・家族のみなさんは、普段から用心深く、外出を控えているので、
ウイルス感染にかかりにくいでしょう。

伝染病は、病原体(ウイルス)と宿主(ヒト)の関係です。
集団の中で感染が拡大していく過程を「SIR」という数理モデルで考えます。
集団の中に、抗体を持っていない感受性保持者(Susceptible)が、ウイルスを撒き散らす感染者(Infected)に接触すると、「S」から「I」に変化します。体内で抗体ができると回復者(Recovered)「R」となります。
インフルエンザの場合には、解熱してから48時間待てば、ウイルスを排出しなくなるので、出勤が可能になります。
しかし、新型コロナウイルスの場合は、潜伏期間が長く、感染してもほとんど無症状の人がいるので、自分では感染者であるという自覚がなく、多くの人々にウイルスを撒き散らしてしまいます。
大流行が自然に収まる時には、多くの人が抗体を持っている回復者「R」になります。
感染者を集団から完全に除去してしまえば、隔離者 Removed「R」になります。
感受性を有する人(Susceptible)にワクチンを接種すれば、抵抗性を有する人Resistant「R」になります。
(このように「R」はいろいろな意味になります)
インフルエンザの予防接種を、集団の中で7〜8割の人が受ければ、大流行は抑制されます。
感染爆発を防ぐには、感受性を有する人「S」と感染者「I」の接触(コンタクト)を避けために、社会的距離(Social Distance)を保つことが必要です。感染者を病院で隔離ができなければ、家庭内で隔離を続けるしかありません。
新型コロナウイルスに対するワクチンの安全性が確認され、多くの人が接種を受けるようになるまでは、小さな規模の集団感染(クラスター)を生じるたびに、その拡大を抑制する措置を講ずるしかないでしょう。
長期戦になると思います。

中国・韓国・台湾・日本でCOVID-19の感染拡大を抑制することができている。
一方、ヨーロッパやアメリカでは感染爆発が起きた。
ニューヨークでは、アフリカ系アメリカ人の死亡率が、ヨーロッパ系アメリカ人の死亡率よりも高いことが報告されています。
これは、社会経済学的な格差が原因かもしれませんが、遺伝的多様性による差かもしれません。
私は遺伝的多様性に興味があります。
COVID-19が細胞に侵入する時に、最初に結合するタンパク質がACE2です。
ACE2は血圧調節に関与しており、ACE2遺伝子の多型によって、抗高血圧薬の効き方に差があります。
ACE2遺伝子はX染色体にあります。
ACE2多型の一つに、AタイプとGタイプがあります。
Gタイプを持っているアジア人男性は50%で、Aタイプを持っているアジア人男性は50%です。
Gタイプを持っているヨーロッパ人男性は25%で、Aタイプを持っているヨーロッパ人男性は75%です。
Gタイプを持っているアフリカ人男性は10%で、Aタイプを持っているアフリカ人男性は90%です。
もし、Gタイプの男性がCOVID-19に抵抗性があり、
Aタイプの男性がCOVID-19に感受性があると仮定すると、
世界における感染爆発の地域差を説明できます。
また、女性と男性と比較すると、男性の死亡率が高いことが注目されます。
女性はX染色体を2本持っているので、AAタイプ、AGタイプ、GGタイプに分かれます。
女性では、X染色体の一方がランダムに不活性化されます。このため、
GGタイプとAGタイプの女性はCOVID-19に抵抗性があり、
AAタイプの女性はCOVID-19に感受性があると仮定できます。
GG+AGタイプを持っているアジア人女性は75%です。
GG+AGタイプを持っているヨーロッパ人女性は43.75%です。
GG+AGタイプを持っているアフリカ人女性は19%です。

自分のACE2多型を検査し、
Gタイプを持っている人は感染しにくいので、用心深く通勤を続ける。
一方、Aタイプを持っている人は感染し易いので、在宅勤務にする。
(この仮説が正しくても、差は大きくないので、両方のタイプの人が外出を控えるべきです)
Aタイプの人が発症したら、優先して集中治療を開始する。
遺伝子差別になるかもしれませんが、こんなことを想像しています。

感染が終息に向かったら、ACE2多型の研究ができると思います。

(なお、ペストの場合は、ペスト菌をネズミが媒介するので、都市環境(下水道)を整備しないと収束しませんでした)

順天堂大学大学院医学系研究科神経学 客員教授
イムス三芳総合病院 臨床検査科 部長

田中雅嗣

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