ミトコンドリア病に対するアルギニンの保険収載及びアルギニン治療の周知啓発のお願い
ムクゲ 花言葉 信頼・尊敬
ミトコンドリア病患者会を始めて、5年経ちました。この間医療関係・介護関係、患者様との交流で大変力をいただきました。
息子のメラス進行・胃瘻造設など、今年は本人はもちろん家族にとっても、大きな岐路となりました。
みどりの会の代表として、皆さんから頂いた貴重な意見や希望などをまとめ、声を少しずつ出してゆき、少しでも前に進めたら良いと考えております。
皆様からの率直な意見をお待ちしています。どうぞよろしくお願いします。
アルギニン製剤の保険適用とミトコンドリア病への適応、およびアルギニン治療の周知・啓発については、みどりの会立ち上げ時にも大きな目標でありました。
古賀靖敏先生からの校正も得られましたので、みどりの会のスタッフとともに声を広めていきたいと思っております。どうぞよろしくお願いします。
『ミトコンドリア病に対するアルギニンの保険収載と周知啓発のお願い』
ミトコンドリア病メラスの息子を持つ母親の伊藤千恵子と申します。
希少難病ミトコンドリア病は、病態が多くの臓器にわたり、発症年齢も病状予後も多岐にわたるため、病を囲む人々の苦労は計り知れません。
中でも患者が国内約一千人と最も多く、思春期以降突然の脳伷塞様発作や痙攣を繰り返し、予後もおもわしくないメラス患者は、症状の差は人それぞれですが、多臓器の病状憎悪に加え、脳の高次機能不全によるコミュニケーション・認知障がい、精神症状の悪化で、家族の苦労はひとしおです。
私は、次男のミトコンドリア病メラス発症時に自分が行き詰まった経験から、多くの関係者の方々と情報交換し、少しでも未来に明るい希望を持ちたいという思いで、「ミトコンドリアみどりの会」という患者会を個人的に立ち上げました。
次男は17歳高校3年在学時にメラスを発症し、私はその時に久留米大学の古賀靖敏先生開発のアルギニン治療を知りました。
しかしながら、入院先の病院にアルギニン治療を施してほしいと再三にわたって要望いたしましたが、全く受け入れてもらえず、続け様に4度に渡る脳伷塞様発作に見舞われ、徐々に脳の機能がダメージを受け、認知症状悪化、精神障害憎悪、易疲労性などが進み、重篤な状態になっていきました。
在宅療養を開始後、少しでも病状を改善できるようにと地域の医療機関を訪ね回り、やっとの思いでアルギニン点滴静注をしてもらえる手段を得ることができました。
その後の8年間の在宅療養中は、不穏時や片頭痛・吐き気などを起こした時、食事も薬も取れない時など、アルギニン点滴静注のおかげで体調が改善され、好きな釣りや生き物の絵を描くことで、生きる喜びを見出すことができました。
自分はみどりの会の活動を通じ、アルギニンを早期に入れてもらい脳の改善が早かった方と、反面入れてもらえずに未だ苦しんでいる方の実態を見てまいりました。
そして、メラスを発症した患者に一刻も早くアルギニンを入れてもらい、脳のダメージを少しでも軽減してほしいという願いから、次第にアルギニン点滴静注の保険適用と、ミトコンドリア病への適応を望むようになりました。
その後古賀先生が、ご研究の成果であるアルギニン治療に関する資料を送ってくださり、アルギニン点滴静注の保険適用に向けて、厚労省医薬品審査管理課や製薬会社などに働きかけを行いました。
しかしながら、(親身になって話を聞いてくださる方にも巡り会えましたが)、一患者家族の力は非力でした。
暗中模索の中、古賀先生が信頼する国立成育医療研究センターの中村秀文先生が、社会保険診療報酬支払基金【審査情報提供検討委員会】の検討を経ることで、原則として保険適用が認められるルートを紹介してくださり、次いで古賀先生が、日本先天代謝異常学会から厚生労働省保険局医療課宛てに「医薬品の適応外使用事例」の申請書を提出してくださいました。
古賀先生はじめ複数の先生方による、アルギニンの有効性のデータの蓄積、論文発表やガイドラインへの掲載を基に、ようやくアルギニンの経口製剤と静注製剤の保険収載申請のスタートラインに立つことができたのです。
今は、アルギニンが支払基金で審査情報提供事例に決定され、日本中で保険適用が認められることに望みを託し、ミトコンドリア病で倒れた人たちに、少しでも希望が持てる日が訪れることを心待ちにするばかりです。
アルギニンの経口製剤と静注製剤はすでに別の難病で承認販売されていますので、メラスに対しても保険で支払われるのであれば困ることはないのではないかと考えられる方もおられるかもしれませんが、残念ながら次男の場合は、アルギニンがミトコンドリア病メラスの保険適用になっていないというだけで、治療を拒否されました。
今年、2022 年1月に起きたメラス発作再発時にも、救急搬送先の病院(8年前と同じ大学病院)で、そもそも当病院ではミトコンドリア病治療はできないという理由で、アルギニン点滴静注のみならず、アルギニン経口製剤も処方されませんでした。やっとのことで転院した国立の病院でアルギニン点滴静注を施してもらえたのは、再発後ひと月後のことでした。
メラスの脳卒中様発作は、治療のタイミングが遅くなると異常領域が徐々に拡大していき、その結果神経学的後遺障害が遷延し、最終的には不可逆的神経学的後遺症が残ります。またそのような発作を繰り返すことが、脳血管性認知症や寝たきりの要因になることが分かっています。
私たち患者家族は、ミトコンドリア病のことやアルギニン治療を、できるだけ多くの医療機関の方々にご理解いただき、ミトコンドリア病メラスを発症した患者には、一刻も早くアルギニン治療を始めることで予後が改善されるということを、地域の格差なく、広く周知していただくことを望みます。
私たち患者家族は、残されたいのちの時間を、家族とともに過ごす大切さを感じております。故に、頭痛や吐き気など不穏時でも、入院せずに自宅あるいは外来にて、アルギニン点滴静注を受けることも望みます。
介護する親も齢を重ね、日常生活での患者介護は、他者との協力・連携なしには立ち行かない状況にあります。しかしどんな状況であれ、患者の延命、病状の改善には全力で臨みたいと思う患者家族であります。
いのちの切岸に立たされた患者と家族が、共に共有する時間を少しでも豊かに過ごすための要望書を、ここに提出する次第であります。
アルギニンの経口製剤と静注製剤の保険適用と、ミトコンドリア病への適応を、患者家族一同こころから望んでおります。
審査が通りますよう、一同こころから、温かいお導きを望んでおります。
ミトコンドリアみどりの会
代表伊藤千恵子 患者家族一同